
5歳竹島水族館へ。自分用のカメラで写真を撮って、手作り図鑑を作ります。
「一生、ここには来たくない」──。1歳半健診で保健士に厳しく注意されたことで打ちのめされ、転勤先で孤立し、複数の幼稚園から入園を断られた絶望の淵。他害や幼稚園への行き渋りに悩み、周囲の目を恐れて社会から距離を置いていた母親を救ったのは、ある「視点の転換」でした。
発達特性を持つ子の保護者のリアルを届ける連載第10回目は、VARYで学んだ「特性を消すのではなく、社会を渡り歩く作法を教える」という考え方で、親子の笑顔を取り戻したTさんの物語をお届けします。
「一生来たくない」打ちのめされた健診と、加速する他害への恐怖
━━━ お子さんの発達特性に気づいたきっかけを教えてください。
(Tさん)息子が1歳になった頃はコロナ禍かつ、私自身に持病があるため絶対にコロナに感染できない状況であり、人との接触を最小限にして過ごしていました。周囲の子と比較する機会もなく、言葉の遅れも「交流がないせいかな」と、どこかフワフワした気持ちでいたんです……。
でも、1歳半健診の待ち時間に、息子が保健センターの荷物用カートを押して走り回ってしまって……。保健師さんに「静かにさせてください」と厳しく注意され、「一生ここには来たくない」と思うほど打ちのめされました。1歳半検診の課題にある指差しは一切せず、机の下に潜ってふざけて終わるような状態でした。
━━━その後、転勤を機にさらに大変な時期を迎えたそうですね。
(Tさん)1歳7ヶ月で大阪から愛知へ越してきたのですが、環境の変化によるストレスからか、顔を狙った引っ掻きが始まりました。さらに2歳を過ぎると、知らない人やお友達のお母さんを叩きに行ってしまう「他害」が一番の悩みになりました。
力加減が分からず相手を傷つけてしまうのが怖くて、送り迎えで人に会うのが恐怖でした。幼稚園に通っていた上の子の送迎をバス通園に切り替え、人との接触を極限まで減らしていたほどです。マンションの騒音で指摘されたような経験もあり、当時はすべてをネガティブに捉えていました。「2歳から3歳の頃が一番孤独で、絶望していた時期」でした。
複数の園に断られて。ようやく出会えた「大丈夫」という言葉

4歳、はじめての海外旅行でグアムへ。船への憧れが強く、ボートに乗せてもらって大喜びでした。
━━━発達特性がある子の幼稚園選びは難しいと思いますが、どんな感じで進めましたか?
(Tさん)地域の公立幼稚園では「すぐに噂が広まって住みづらくなるのでは」という不安があり、複数の園を見学しました。でも、特性を伝えると「安全を保証できない」と難色を示されるばかりで、どこも「どうぞ、大丈夫ですよ」とは言ってくれませんでした。
そんな中、最後に出会った隣の市の園の先生だけが「大丈夫、大丈夫。そのうち座れるようになりますよ。お母さん、大丈夫ですよ」と温かく受け入れてくださったんです。その言葉に救われ、片道30分かけて通うことを決めました。
━━━佑美先生や、本協会のプログラム「VARY」を知ったきっかけは何でしたか?
(Tさん)一般的な育児アドバイスで「もっと話しかけてあげて」と言われるたびに、「もう思いっきり話しかけてるよ!」と自分を責めていた時期に、たまたまインスタライブを見かけました。
そのライブ配信では自由に質問して良かったのですが「お姉ちゃんたちが息子を無視して遊ぶ」と相談しました。お姉ちゃんたちには「ごっこ遊び」のルールがあるのに、息子はそれを理解できずに突っ込んでいってしまう。その結果、邪魔者扱いにされたり、「じゃあ悪者役ね」と理不尽な役割をさせられたりしていました。
お姉ちゃんの立場も理解できる一方で、息子を守りたい気持ちもあり、どう介入すべきか板挟みになっていたのです。
佑美先生からは「お母さん、息子さんは『何も分かっていない』と決めつけていませんか?Tさんが息子さんに対して何も分かってないっていう風に 接するからお姉ちゃんもそのような対応をするのかもしれません」と核心を突く指摘をされたんです。
佑美先生もきょうだい児であり、発達特性のある子を育てる母。同じように悩んだ経験をさらけ出して話してくれる佑美先生だからこそ信頼できると感じ、すぐに入会を決めました。
特性を直すのではなく「出し方の作法」を教えるという目から鱗な視点

4歳、七五三詣り。祖父母におめでとうと言われ、照れていつも以上にお調子者になっていました。
━━━VARYでの学びの中で、特に印象に残っていることはありますか?
(Tさん)VARYに入会してからは、佑美先生が1週間に1回オンラインで行っている発達相談の過去のアーカイブを徹底的に聞き漁り、息子と似た特性の子への対応を学びました。一番印象に残っているのは、「特性を消すのではなく、社会でうまく立ち回るための特性の出し方を教える」という考え方を学べたことです。
例えば、新しい場所で走り回りがちなんですが事前に「興味があるので見て回ってもいいですか?」と周囲に一言添える。この一言があるだけで、周囲の目は「困った子」から「好奇心旺盛な子」に変わります。この「出し方の作法」を教えるという視点は、まさに目から鱗でした。
━━━息子さんの成長で、嬉しかったエピソードを教えてください。
(Tさん)言葉も少しゆっくりだったのですが、自分の意思を言葉で伝えてくれるようになった時は嬉しかったです。毎日返事がなくても「今日の夜は何が食べたい?」と聞くようにしていたのですが、ある日突然、「親子丼が食べたい」と言ってきた時は本当に驚きました。有言実行でちゃんと食べた姿を見て、感動しました。
将来は水の生き物が好きで飼育員になりたいと言っていましたが、最近は「幼稚園の先生になりたい」とも言っています。自分を認めてくれた先生のような存在に憧れを持てるようになったことが、何よりの喜びです。
── 最近のお子さんの様子はいかがですか? 嬉しい成長があったと伺いました。
(Tさん)はい。最近は「発達が進んだのかな」と思える変化がありました。以前はただ泣くだけだった幼稚園への「行き渋り」ですが、最近はお友達に嫌なことをしてしまった時に「明日仲良くしてくれるか分からないから行きたくない」と、先の展開を予想して不安を口にするようになったんです。
自分とお友達の関係を客観的に見通せていることに驚きました。もちろん、相手が嫌がる「うざい絡み方」を自分でも分かっていながら、面白さが勝ってやめられないこともあります。でも、今の園の先生は適切に介入してくださるので、とてもありがたい環境だと思っています。
━━━ 最後に、今まさに孤独な育児で悩んでいる保護者の方へメッセージをお願いします。
(Tさん)特に2歳~3歳の頃はどこに相談しても「様子見」と言われ、一番孤独で辛い時期だと思います。でも、視野を広く持って、佑美先生のような具体的で納得できるアドバイスをくれる人や、身近で寄り添ってくれる理解者を探してみてほしいです。
やってみようと思えないアドバイスに無理に従う必要はありません。「やってみようかな」と思える自分の気持ちを大切にして一歩踏み出せば、きっと状況は変わっていくと思います。
特性を消すのではなく、その子らしく社会で生きていくための知恵を学んでいきましょう。
(文:勝目麻希)