発達特性がある子を育てる親が意識すべきこと〜佑美先生の実体験から〜
発達専門小児科医として1万組以上の親子を診てきた日本小児発達子育て支援協会代表の西村佑美先生。そんな佑美先生は、ご自身も発達特性のある息子さん(第一子・長男)を育てています。息子さんが未就学の頃は多動や強いこだわりで苦労も多かったとのこと。しかし、今では発達特性も目立たなくなり、中学受験で合格するほどに。
今回のインタビューでは、発達特性がある子を育てる親が意識すべきことを佑美先生に伺いました。
多動で手を繋げない。スーパーで見失うこともあった長男の幼少期
━━━佑美先生のお子さんも発達特性があり幼い頃は大変だったそうですが、具体的にどんなことが大変だったか教えてほしいです。
(佑美先生)第一子の長男には、目が合いにくい、言葉の遅れ、多動、かんしゃくなどの発達特性がありました。
特に大変だったのが多動の部分。外出すると基本手を繋いでくれないので、すごく大変でした。多動の特性がある子は、体が制御されるので、手をつなぐことを嫌がることが多いです。年中なってからはお友達と手を繋げるようになりましたが、私とは手繋いでくれませんでした。
エレベーターのボタンを押しに行っちゃうし、来た電車にすぐ乗り込んじゃう。スーパーに行くと見失うのも日常茶飯事。そんな感じで、常に目が離せませんでした。
━━━そうなんですね。息子さんが何歳くらいの時が一番大変でしたか?
(佑美先生)一番悩んでいたのは、3~4歳ぐらいの時ですね。ショッピングモールで迷子になって、放送されたことも何度かあります。それと、第2子が生まれた後も大変でした。長男は多動がゆえに外出中に眠くなってしまうので、ベビーカーは生まれたばかりの第2子のためではなく、長男のために持ち歩いていましたね。
その後少し落ち着きましたが、5歳の時に東京駅で迷子になりかけた時もあって……。その時は本当に焦りました。さすがに本人もすごく怖かったみたいで、「迷子になったらもうママに会えないかもしれない」と認知が進んできたこともあり、それをきっかけに迷子になることは減りました。
━━━発達特性が強く出て大変だった時期、佑美先生はどんな風に感じていましたか?
(佑美先生)仙台に帰省してた時に行ったスーパーで長男を見失ったことがありました。普段行っていないところということもあり、ものすごく焦って、店内を何度も探しました。3〜4周店内を探してやっと見つけたのですが、長男はしゃがみ込んで青い綺麗なお酒のボトルを眺めていたんですよね。その姿を見た時に「この子は好奇心旺盛で、好きなものを見るのが楽しいだけ。親を困らせようと思って走り回ってるわけじゃない」と感じたんです。「スーパーの中は楽しくてしょうがないんだろうな」と理解しました。
それからは、自分の行動を変えました。スーパーに自分ひとりで連れて行くのは難しいので、夫婦で連れて行くことに。スーパーの中を探検して好奇心を満たしてあげないと、いつまでも走り回るので、先に一緒に店内を回ったうえで、買い物をするようにしました。実際に、欲求を満たしてあげることで、落ち着いて店内を歩けるようになるんですよね。
子どもの行動を肯定的に注目し、接し方を変えると子育てが楽になる
━━━子どもが親の言うことを聞かないと、怒って子どもの行動を変えようとしがちですが、親が考え方や行動を変えるのが大事なんですね。
(佑美先生)そうです。子どもを観察して、子どもが何に目を輝かせてるのかに気づくのが大切なんです。そうすることで、子どもにどうやって接すればいいかわかってきます。
例えば、部屋がものすごく散らかっているとイライラしてしまいますよね。でも、子どもが楽しく過ごしているなら、私は部屋が散らかっていても大した問題じゃないと考え方を変えました。 おもちゃ遊びを通して子どもの興味があることや得意なことがわかるから。
おもちゃを出すことを親が嫌がったり、出すのが面倒なケースにおもちゃを片付けたりしていると、親も子も遊びたくなくなってしまいます。しかも片付けも手間に感じてやらなくなります。そうなると、子どものことを理解する機会を失ってしまいますし、部屋も散らかりっぱなしでそれはそれで親も子もストレスですよね。
あと、子ども目線で物事を考えることを意識していると、だんだん子どもの気持ちがわかるようになるんですよ。私はいつも「子どもの気持ちを想像してナレーションしてあげたり代弁しよう」とお伝えしているんですが、これが上手くなると子どものかんしゃくや問題行動も減ります。
例えば、幼い長男が積み上げて遊んでたブロックが崩れてかんしゃくを起こしたとき、その場にいた私の母が「残念だね」と大げさに言ってあげたら、「ざんねんだぁぁ」とよく言うようになったんです。それまではキャーって叫んでたのが残念という言葉で表現できるようになり、私も長男の気持ちを理解しやすくなりました。
——— なるほど!子どもをしっかり観察することで子どもの気持ちを代弁できるようになると、子どもの気持ちも落ち着き、かんしゃくや問題行動が減る良い流れができるんですね。
(佑美先生)そうなんです。特に肯定的な注目は簡単にできますし、すぐに取り入れてほしいです。
余裕があれば子どもの行動をナレーションで実況するのもおすすめ!朝の支度が遅い子には「服を広げたね」「頭を通したね」「手を通したね」「ズボンが履けたね」「靴下履けたね」とナレーションするだけで、子どもは褒められた気分になります。その結果、朝の支度が早くできるようになり、親も楽になりますよ。
あと、言葉が出ていない子だと、気持ちの代弁やナレーションをしても理解してくれないと思いがちですが、実は親の言葉をわかっているケースも多いです。なので、言葉が出ていない子も代弁やナレーションをすることで「褒めてもらえた」「自分の気持ちをわかってもらえた」と感じてくれるはず。そうすると、親とコミュニケーションを取ろうという気持ちが芽生えるので、親子で意思疎通がしやすくなりますよ。
———実際に肯定的な注目をはじめて、どれくらいで変化を感じることができますか。
(佑美先生)2〜3歳の子だと1週間ぐらいで変わります。肯定的な注目にプラスしてお子さんの行動をナレーションできると、もっと早く変わりますね。
ただ、この肯定的な注目を始めるには、ネガティブな感情を持たないようにすることが大事なんです。発達特性があることに落ち込み、ネガティブな感情を引きずったままだと、なかなか肯定的な注目ができないんですよね。 ネガティブな感情を取り除いてから肯定的な注目とナレーションができるようになれば、数週間で子どもは変わります。
———肯定的な注目やナレーションは小学生の子にも有効でしょうか?
(佑美先生)小学生でも特に下の子がいて自分をみてくれていないと感じている子は「親は自分を見てくれない」「いつも怒ってばっかり」「自分は嫌われてる」みたいな自己否定や、注意引きたい思いからかんしゃくを起こしてしまう子もいます。この場合、肯定的な注目を1~2週間すると一気にかんしゃくは減っていきます。
━━━子どもの特性に合わせた接し方のコツを知ると、育児が楽しくなりそうですね。
(佑美先生)発達特性がある子は、元々嘘もつけないし、一生懸命な子どもたちが多いんです。こだわりが強いからこそ真面目すぎて、傷つきやすい。そこでお母さんに愛され、肯定的に見てもらってるとそれが自信になります。「こんな頑張ってる自分は頑張ったままでいいんだ」って感覚になります。あと、親に愛されている安心感を得ると、素直さが目立ってきて、本当に育てやすくなるんですよね。
だから私が主宰している子ども発達相談アカデミーVARYのメンバーさんたちは、みなさん自分のお子さんを「可愛い」「大好き」と言ってます。ちょっとした成長もすごく愛おしく感じられるようになるんですよね。そこまでどれだけ本人が頑張ってきたか、悩んできたかっていうヒストリーを見てきたから、可愛くてしょうがないんですよ。
うちも3人子どもがいますが、発達特性がある長男が1番素直。もう中学1年生なんですが、私と散歩に行きたがるのね。身長が伸びたから、「後ろから見たら彼女に見えるかな?」とか言ってくれてすごく可愛いです。
子どもに合った環境を選ぶ大切さ
━━━親の行動を変える以外に大切なことはありますか?
(佑美先生)子どもに合った環境を選んであげるのも大切です。親の接し方がいくら上手くても、保育園や幼稚園の環境が合っていないと、かんしゃくや問題行動などが強く出てしまうからです。だから、環境が合っていないと感じるなら、思い切って転園してしまったほうがいいケースもあります。そのまま同じ園に通っていても、今よりマシになるかは分からないですからね。
うちの場合、日本の私立幼稚園からインター幼稚園へ転園したのですが、「この子は歩き回ってるけど、ちゃんと話聞いてるから別に大丈夫よ」と先生が言ってくれて。同じ歩き回る行為でも大人の捉え方自体で子どもの評価が変わるので、言葉の遅れが少し心配でしたが、長男のことを理解してくれるインター幼稚園を選びました。その結果、自分に自信を持ちながら表現する力が伸び、英語が得意になりましたし、のびのびと楽しみながらも課題には積極的に取り組めて、メリハリのある幼稚園生活を過ごすことができました。
━━━ 早期介入が大事だと思うんですけど、いつまでなら間に合いますか?
(佑美先生)早ければ早いほどいいですね。お子さんの年齢が上がると、お子さんの癖も強くなるうえに、お母さんが変わりにくくなってしまいます。母親歴が長くなると、習慣化した自分の子育てのスタンスを変えるのがとても大変になってしまいます。特にアイコンタクトは、年齢が低いほど習慣化しやすいので、いつからスタートしても良いですが、年齢が低いほど効果を早く感じられると思います。
日本では「障害」という言葉が邪魔してしまい、自分の子を障害児と認めたくない抵抗があまりにも強すぎると感じます。例えば、子どもが幼児期や学童期に視力が落ちて眼鏡が必要になったとき、誰も視覚障害として扱うことはせず、眼鏡をかけることを考えますよね。視力が低い子に、早めに気づいて、眼鏡を与えてあげることで、いろんなことに積極的に参加できるようになるし、授業も聞けるようになりますよね。
それと同じで、その子が持ってる考え方の癖や特徴を早めに専門家に見てもらって知ることで、その子に合わせた接し方ができるようになります。私はそこを目指していて、お母さんたちの方に気づきや、研究されて専門家が行う声がけや日々の接し方を教えるという形で、VARYを運営しています。障害の診断の有無に関係なく、お子さんの発達に不安を感じたら、すぐに対処法を聞ける場所をと思い2022年にVARYというオンラインの場を作り、VARYメンバーさん向けに毎週行っているライブ配信では発達に関する質問にお答えしています。
━━━診断の有無に関係なく、発達特性で気になるところがあれば、すぐに佑美先生に対応できるのがVARYアカデミーの魅力ですね。
(佑美先生) 発達特性があることに不安を感じるなら、早めに情報を集めた方がいいと思います。自分の子どもに不安を感じると、可愛く感じられなくなってしまうから……。親子でコミュニケーションが取れなくなると、さらに指示が通りにくくなったり、かんしゃくが増えたり悪循環になってしまいます。
でも、早く子どもとの関わり方を学び、コツをつかんで対処するほど、子どもの困りごとを減らせますし、お母さんとしても育てやすくなるのも事実。障害の診断の有無は関係なく、お子さんの発達で気になることがあるなら、すぐに対処法を聞いて欲しいです。
大丈夫、きっとお子さんが可愛くて大好きと思える日は来ます
━━━最後に、お子さんの発達特性があることにより悩み、将来に不安を抱えている方へのメッセージをお願いします。
(佑美先生)長男が2~3歳くらいの時、多動で言葉もゆっくり、目も合いにくかったのもあって、「この子は普通じゃない」「将来もものすごく苦労するんじゃないか」と落ち込みましたし、心から可愛いと思えなかった時期がありました。そして、子どもを心から可愛いと思えない自分をダメな母親だと感じていました。私はあまり覚えていませんが、夫に聞くと当時はよく泣いていたそうです。
でも、信頼できる専門家からアイコンタクトや肯定的な注目・声かけなどの接し方を学び実践したら、一気に困りごとが減っていきました。長男の気持ちがわかり、上手く関われるようになってからは、長男のことがとっても可愛いと思えるようになりました。
今年の母の日に長男が手紙をくれたのですが「僕は、ママのおかげで塾も行けたし、中学受験も頑張れたよ。自分が辛い時に何回も相談にのってくれてありがとう」と書いてあって 。すごく感動しました。私はこの12年間の母親経験で、普通の子育てと異なる日々があったからこそ、子どもと丁寧に向き合うことができ、その分親としての楽しさを感じています。
入会時はネガティブだったVARYメンバーさんも、ある程度落ち着いてくるとみんな同じこと言ってくれます。だから、いまは辛くて、子どものことを可愛いと思えなくても、もう1度好きになれるのを楽しみにしてほしいなと思います。
(文:勝目麻希)
子ども発達支援アカデミーVARYでは、障害の診断の有無は関係なく、発達特性が気になる子を育てる親御さんが子どもとのかかわり方を学べる場を提供しています。現在VARYメンバーは海外含め全国各地から参加され120名ほどで、佑美先生から学べるのはもちろん、同じように悩む先輩ママたちの話も聞けます。また、発達特性があるからこそ親子で強みを見つけるアートプロジェクトが立ち上がるなど活動の幅も広がっています。佑美先生に直接お子さんの発達のことを相談したい方、お子さんの発達特性を活かす子育てをする仲間を作りたい方はぜひ入会をご検討ください。きっと発達特性を活かした子育てができるようになり、お子さんのことを大好きになれますよ。※次回会員募集は7月頃を予定しています。 |
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